合う合わない談義

アルバイト時代、面接前の店長から言われたことがあります。

 

「合わないなって人いる?」

 

店長はなかなか堅物なので、入ってくる人に傾向があることはバイトの間でかなり有名でした。

まず、店長自身が学生時代に打ち込んだので、バドミントン経験者は採用されやすい。

そして他の続いている社員とバイトの成功体験からバレー、吹奏楽経験者も必ず採用されます。

あとは部活を続けたことがあれば好感触で、近所の旧帝大生もよく採用されます。

 

こんなに傾向があるにもかかわらず、店長は人を見る目がなく、「一見真面目そうなのにやっと使えるようになってきたタイミングで急に辞める人」が7割でした。

残り3割の、「最初は不器用でも折角覚えた仕事をなかなか辞められずに結局卒業まで続ける人」でなんとか回している店でした。

 

スペックでしか人を判断できないのか、入ってからは一度思い込んだ第一印象が決して覆らないので、人の成長に目を向けられていないのが一目瞭然でした。

 

そんな店長から訊かれた「合わないなって人いる?」には返す言葉が見当たらず、「え、、、いません」と答えました。

 

私にも仲良くなれなかった人はもちろんいます。

直感が働く質なようで、第一印象で「おっと、、、」となる人は居るのですが、好奇心からなのか、まず誰とでも仲良くなってみたいと思うので折角働いた直感を無視することになります。そして近寄っては、心にもないことを言われるなどして疲れて、やっぱりだめだったなと思います。

 

食べ物に関しても、大人になってなおはじめて食べるものに対しては特に、これを許すか許さないかが今後の好き嫌いにかなり関わると思っています。私はパクチーを未だに判断できずに頑張って食べていますが毎日全ての料理に入っていたら嫌です。

食べ方次第でいけるなんてこともありますよね。

果物をおかずとして食べるのはさすがに、、、

火を通せば好きだけど生は、、、

とか。

 

友だちでも恋人でも同じで、毎日他愛のない会話をしていたい人とここぞというタイミングで背中を押してくれそうな人、安心してジョークを言える人、全部別の役割としての心地良さがあるので、決めつける必要なんてないと思います。

 

こういう話をする相手ではないなとこちらが思っている人は、相手も同じに感じているはずだし、こちらを気にしていないようならこちらも気にしなければいいだけです。

 

そう思っていました。

 

高校生の頃、2年生のクラス替えで知り合ったAさんがいました。

Aさんは前のクラスで恋愛関係で折り合いが悪くなったのにまた同じクラスになってしまったらしいBさんの属するグループを避けて、私のいるグループにやってきました。

私は朝も昼休みも放課後も忙しい部活に所属していて、部活の仲間と席が近かったのでそのまま仲良くしていました。気づけばAさん以外が同じ部活の仲間で、話を振ってもAさんとだけ共通の話題が見つけられないので居心地がよくないだろうなと思っていましたが、Aさんは聞いているだけで楽しいのと言ってわざわざ席の遠い私たちのところへ毎日やってきました。

修学旅行の班決めの時期まで一緒にいたので、自然と私といちばん気の合うCさんと3人で同じ班になりました。

人数の都合上、6人班が最も役割分担しやすそうだったので、別の3人班と合流し、Aさんも少し過ごしやすくなっていました。

 

ある日の放課後に、偶然お互い暇なときがあったので2人で遊ぶと、私には無い考えをたくさん持っていることや本当に楽しんでいることがわかり、それからようやく打ち解けられた気がしました。

 

修学旅行が終わり、しばらくするとなんとなくAさんが素っ気なくなってきました。

そろそろまたクラス替えもあるので、向こうが仲良くしたくないならそれまでだな、と思いながらも、Aさんはなぜか私とLINEを続けていました。

2年生のクラスが終わる日、涙脆いAさんは顔を真っ赤にして泣いて寂しがっていました。

 

3年生のクラスが発表されると、私とAさんは同じクラスだったので、同じだねと話し、事前に発表された座席表を見ました。

Aさんの席の周りには、私と同じ部活の仲間が多くいたので、なんとなく「みんないい子だから安心してね」と言うと、

 

「私その部活の子たち苦手なんだよね」

 

と返ってきました。

 

わざわざ私に言う必要があるのか、それとも私は例外なのか、混乱しました。

私やCさんの他にも、Aさんが仲良さそうにしていた子の中には部員が多かったので、「私もあの子もこの子もその部活だよ〜笑」と冗談めかして返すほか思いつきませんでした。

 

「あなたもCさんも好きじゃないし、」

 

びっくりしました。

そう思っていそうだなとは予想出来ていても、わざわざ伝えてくる人がいるとは夢にも思いませんでした。

とんでもない爆弾を投げられてしまったのではないか、これを言ったことが3年生のクラスで出回ることは考えないのだろうか、

ひとりで考えても埒が明かないけれど、AさんやCさんと仲良くなる可能性のある人には相談できないと思い、口が固く今後文理も部活も関わりがなさそうな友人に相談しましたが、Aさんの性格を知らない上に私の味方でいてくれるので、新しい意見は見つかりませんでした。

 

意を決して同じ時をすごしたCさんに相談してみると、

「私もその話したよ。

修学旅行全然楽しくなかったって言うから私も楽しくなかったって返した。

よくわからない子にそんなに悩まされちゃいけないよ。」

と予想の何倍も強い言葉が返ってきました。

 

私とAさんで闘うしかないのだと察しつつも、あとの一年をどう過ごすべきなのかわからなかったので、こちらもストレートに卒業まで待たずに今すぐ縁を切りたいから3年生では話しかけるなということなのか訊いてみると、

「そんなことはない。言葉の綾だった。気にしないで。」

と言われました。

全く腑には落ちませんでしたが、無理にシャッターを下ろさないと縁が切れないと思う人もいるのだなと思いながら、新学期が始まりました。

 

しばらくすると、不思議なことに2年生の頃一度も近くの席になった事がないのにも関わらず、2度ほど連続で角の席でAさんと隣になってしまいました。

もやもやしながら小テストの採点などの業務的な会話を繰り返しました。

 

冬頃になるとまた近くの席になりましたが、お互い勉強に集中していたので可もなく不可もなく勉強に関わることだけを話して過ごしていました。

私の誕生日、Aさんは雑貨屋さんで買うようなお菓子の詰め合わせをくれました。

また訳が分からなくなりそうだったので、考えるのをやめて受け取り、Aさんの誕生日にはバレンタインのお裾分けとしてクッキーを渡しました。

 

しばらくして、Instagramで見かけなくなりました。

アカウントを変えていましたが、特に何もしませんでした。

 

Aさんは今頃どうしているんでしょうか。

私はあれから、なんとなくで「いい人だよ」と紹介するのが怖くなりました。